爛漫と咲く 前略、逃げます。




「お前……」
「天真」
 天真が望美の腕を掴んだまま何か言おうとしたが、追い付いてきた頼久によって遮られる。
「急に走り出して、どうした?」
「いや、こいつがさ」
 ひょいと軽く望美を引き寄せて、頼久に示す。
「どっかで見たことあるなと思って」
 望美は息をのんだ。
(嘘、気づかれた……?)

                                 (本文「カサください。」より抜粋)


***


 そのときふいに髪に何かが触れた感触がして、思わず顔を上げそうになったその衝動をやり過ごす。
 目線だけそっとそちらにやれば、どうやら友雅の手が頭に触れているようだった。
「……葉がついていたよ」
 声がして、下げられた手からひらりと緑の葉が落ちる。
 そういうことかと納得したが、それでもまた髪に触れられている感覚がして、望美は戸惑った。
「あ、の……」
 おずおずと声を掛けると、ちゅ、とわざとらしい音が耳に届いた。
 それが髪に口づけられたと理解するのに時間はかからず、同時に一気に顔に熱が上って慌てて一歩退いた。
(何、今の……っ)


                                 (本文「ネコください。」より抜粋)


***


(……って追ってくるの!?)
 一応振り返れば、ついて来ている泰明を見つけて、望美は慌てた。
 雨脚は強くなる一方で、かつ方向もわからない。
 草やぶに突っ込んでますます方向を見失った。
「どうしよう……」
 呟いたと同時に、後ろ手を引かれてびくりとする。
 振り返ると、手を捉えていたのは泰明ではなく永泉だった。

                              (本文「逃がしてください。」より抜粋)


***


「……あれ、誰かいるのかな」
 あかねの声がして、雨で冷えた体の体温がさらに下がる。
「山の方かな、ボク見て――」
 詩紋らしき声が言うのに、望美は咄嗟にそれを遮って言った。
「あ、あかねちゃん、いるの?」
 声が裏返らなかったかは怪しいが、近づいてくる足音は止まった。
「あ……もしかして小望くん? いるの?」
「う、うん。突然の雨で濡れちゃって、着替えてたんだ」
 言いながら慌てて手ぬぐいを拾い上げて髪を結い上げ、手ぬぐいを被る。濡れた髪では気持ち悪いが、言っていられない。
「あ、私拭くもの持ってるよ。貸してあげる」
 さくさくと草を踏んで近づいてくる音がして、望美はさらに焦った。

                              (本文「来ないでください。」より抜粋)